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何故、水運儀象台から近代天文学へつながらなかったのか?
 諏訪湖畔にある「時の科学館:儀象堂」に展示されている水運儀象台は、金によって滅ぼされる北宋王朝の末期1092年に建設された「水運儀象台」を精巧に復元したものです。上の方から、特定の星を観測するための「渾儀(こんぎ)」、その下に、「渾象(こんしょう)」とよばれる天球儀があり、多数の星が配置されていて、時間ごとにどの位置の星がみえるかがわかります。一番下には正確な時刻表示機能をもつ時計装置が設置されていて、動力に水を使用していることから「水運儀象台」とよばれます。下図はその画像です。



 さて、この「渾象」上にかかれた星(占術で使用された二十八宿など)はお互いの位置関係は変わりません。それゆえ、事前に天球儀上に印をつけておくことが出来ます。こうした星は恒星とよばれます。これに対して、太陽は天球儀上で季節によって位置をかえますから一点ではあらわせず、線分(黄道)で表示されます。恒星の位置が変化しない座標系として、渾象では赤道座標系を使用して天体の位置を表示しています。下図が水運儀象台に設置されている渾象(一種の天球儀)です。



この図の黒帯のようなのが赤道座標系にいう赤道であり、黄色の点線が下から赤道をよこぎっているのが黄道(太陽の通り道)です。黄道が下から赤道を横切る点が春分に対応しています。また、この春分点の上方に黄道周辺の恒星である二十八宿に属する奎宿(西洋星座のアンドロメダ座にかかわる)と壁宿がみえます。また、丸い円のような星は天厩(てんきゅう)という星座です。
 昨年11月19日の本ブログ「冬至線を守る(2)」で紹介しました球面三角法による天体(恒星以外の天体、例えば、太陽)の位置計算法でも赤道座標系を使用して、観測したい天体の位置を(赤緯、赤経)で表示します。これはこの渾象でも出来ます。ところが、天体の位置を計算するには、この他に、観測者の位置を示す(緯度、経度)と観測時間を示す「恒星時」を指定せねばなりません。このうち、前者は、地球が球体であることがわからないと出来ませんし、観測時間は、地球が太陽のまわりを公転しつつ自転していることがわからないと出来ません。
 それゆえ、11世紀では最先端の技術を開発した中国科学ですが、近代天文学、特に、任意の地点、任意の時間での天体の位置計算には、かなりの距離があったことがわかりますし、少なくとも、コペルニクスの登場が必要だったでしょう。何故、中国科学においてコペルニクスが登場しなかったのかを理解するには、理系の学問だけでなく、政治体制をささえる思想・哲学の面ともかかわってきますから、文系の学問分野との共同作業となります。
 ここでは地球の自転をわかりやすい形で展示した「フーコーの振り子」を上野の国立科学博物館で見る機会がありましたので紹介します。フーコーとはフランス人のレオン・フーコー(1819ー1868)のことです。1851年3月26日パリのパンテオンの巨大なドームに設置された振り子の錘を壁にとめているひもをマッチで焼き切ることで、実験は開始されました。
 当然ながら、振り子は重力のあるところでひっぱると摩擦が小であれば、いつまでも振動しつづけます。ふりこの釣り下げられた真下には円盤をおいて、時刻が表示してあります。下図は国立科学博物館での画像です。これを見学したのが午後4時半頃でしたから、振り子の錘の先端は16時半頃を指しています。


 

もしも貴方が正午にこの振り子をみたとしたら、振り子の先端は12をさしていたでしょう。ここからがおもしろいところです。振り子の振動する面は時間とともに動いたりしません。なぜなら、振り子はドームなりの天井の一点に固定されていて重力と慣性と多少の摩擦によって振動しているだけだからです。回転しているのは、この円盤の方なのです。円盤はもとより、円盤の固定されている建物の床、床の固定されている建物、建物の固着している地球自体が回転しているのです。地球の自転によって回転しているのです。
 この簡単な装置によって地球の自転を最初に実証したのが「フーコーの振り子」なのです。世界で最も美しい10の科学実験の一つといわれるのもうなづけます。上図の円盤には数字(時間)の表示されていない部分がありますが、これは東京といった中緯度では、円盤が一周する時間が24時間(360度)より長いためです。北極上では正確に24時間で一周しますが、北極から赤道に向かうにつれて一周する時間は長くなっていきます。
 ただ一つ残念なことは、国立科学博物館での展示は部屋の片隅でなされていて、振り子の釣り下げられている基点(これも地球の自転によって回転している)が観察されえないことです。やはり、もう少し大きなホールなどで展示したいものです。それと、東洋における科学技術史との関連で展示するなど工夫が必要と思います。ところで、観察させていただいた時に抱いた思いを七言絶句にしてみました。韻は上平声十四寒です:

国立科学博物館に傅科(フーコーの振り子)を看て感あり

上野公園博物攢   上野公園に博物(あつ)まる

地球自転久望看   地球の自転 久しく看るを望む

行尋迄認傅科  (ゆくゆく)尋ね(つい)に認める傅科(ふかはい)

盍吊高楼供大観 (なんぞ)高楼に吊して大観(たいかん)に供さざらん



   

 

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author:bairinnet, category:科学に親しむ, 06:21
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