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延享5年(1748)梅林院能俊『旅日記』翻刻の紹介

 当社3代宮司梅林院能俊が加賀から伊勢・近畿各地をめぐって加賀に帰る一大旅行記を書き残していますが、旅の途中に169句の発句と和歌2首を書き添えています。この旅日記には100年後の文久3年(1863)3月に梅林院順承(6代宮司)が記した極め状がついていますが、筑波大学綿抜豊昭氏により旅日記本体が、梅林院能俊「伊勢他紀行(仮称)」として 国文学研究資料館調査研究報告 第40号に掲載され、近々、国文学研究資料館HP内の学術情報リポジトリーに登載されますので、ご案内申し上げます。原本は大部な巻物ですが、下図は表紙と出だしの桑名の部分を示しています。

能俊がどのような旅路をとったかをたどってみると以下の通りです: 桑名から出立して伊勢神宮・二見の浦・朝熊虚空蔵・鈴鹿山・大津・京都北野天満宮・加茂の競え馬見学(4月5日)・大和路から奈良・二上山当麻寺・三輪の明神・吉野山の西行法師の旧跡・高野山の天徳院や御家の御廟所・和歌の浦・紀伊三井寺・岸和田・堺・住吉・大坂の天王寺で道風真蹟の額見学と大坂天満宮・明石城下の天満宮、人丸堂にて正一位柿本大明神の勅額や忠度の塚・尾上の鐘と相生の松・曽祢の天神松・姫路城下・大江山・天の橋立・和泉式部の歌碑・切戸の文殊堂・福知山・水戸山の峠、尾細峠など越えて鳥羽・足利尊氏ゆかりの篠むらの八幡社・亀山の城下から桂川の渡し舟・四条通柳の馬場に旅宿を借りて滞在、祇園祭見学し梶井の門跡天満宮、曼殊院・聖護院・南禅寺に詣でるもこの日は氷室の日・宇治の平等院にて頼政の装束拝見・宇治からの帰路、万福寺や稲荷社に参詣・北野の宮に再拝して、北野の上乗坊能作坊訪問―ー>

平野社の帰りに北野社のお土居の外を流れる紙屋川の橋上にて、伴える人のいうには、かって能順が紙屋川を詠んだ発句

           「かみや川つつみあつむる蛍かな」(聯玉集416番)

にちなんで発句つこうまつれというに答えて能俊は110番目の句として「とふ蛍かけを包むな紙屋川」と詠んでいるーーー>

四条通柳の馬場の旅宿にかえり梅松軒の人と交流・里村昌廸の連歌会に参加、知恩院や高台寺、泉湧寺、東福寺、東寺、相国寺、大徳寺など詣で、北野社僧の連歌会の後に八幡山の瀧本坊にて発句所望される、この後も各所めぐりて、7(ママ)注)月14日は祇園の神事山鉾を見学・・・・糺すのやしろ(下かも社)、水無瀬の御殿御所・邂逅山金龍寺(能因法師ゆかり)・水無月の末(6月末)に京都を立ち、辛崎の松・三井寺・義仲の塚・石山寺・瀬田の橋と八景・三上山から竹生島を眺め・安土の老蘇の森・多賀社に詣でて鳥本にて朝鮮通信使の帰途に会う・長浜の大寺に詣で・気比の御社に詣で・今庄から湯尾峠の茶屋・福居・新田義貞戦死場所の石碑・北潟より舟にのりて吉崎鹿島など眺め大正寺にて関迎えに来た多くの人々と交流して171番の結句「来る秋は風の戸ささぬ関路かな」 延享辰 初秋中旬 梅林院能俊 として旅日記は終わっています。

   延享辰とは延享5年(1748)ですが、この歳は桃園天皇即位により7月12日に寛延に改元になっています。それゆえ、能俊が帰国したのは7月10、11日頃と推察されます。なお、上賀茂神社の競え馬は現在は5月5日に催行されていますから、旧暦では能俊が加賀を出立したのは3月中となり、およそ4ケ月の旅行となります。

このような長期の旅行には随行もふくめて経費はかなりの額となります。また、創健者の利常公より能順に「月次連歌会」の催行を命じられ藩政期には代々引き継がれていく行事ですが、能俊の旅行中はこの月次連歌は欠礼となり、その旨の許可を藩から得て旅立っているはずです。しかも、このころの一大行事である朝鮮通信使の一行の行きと帰りの2回遭遇しててもさしたる関心を示していません。 

  上記に記した訪問地には歌道の歌枕(和歌によまれた名所旧跡)が多く含まれ、『能因歌枕』を著した能因法師ゆかりの邂逅山金龍寺も含まれています。綿抜豊昭著『小松天満宮と能順』に紹介されているように能順以来の歴代宮司(少なくとも4代由順まで)は「古今伝授」をうけた歌道宗匠(月次連歌会を仕切る有資格者)でしたから、古今伝授をうけるための旅行として藩よりの許可と旅費をいただくための一種の実績報告書としてこの旅行記を書いたとも推察されます。現代では、四国八十八か所巡りなどが有名ですが、江戸時代中期にこのような歌枕を訪ねるとも考えられる旅があったのかどうか、類例が待たれます。

 

 注)祇園祭宵山の山鉾は現在では7月14日からですが、旧暦では6月14日からでしょうし、この少し後の記述に「水無月の末」に京都出立とありますから、ここの「7」月は能俊の書き間違えです。

 

author:bairinnet, category:宝物紹介, 09:05
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